スペース

〜廻日記特別篇 虹彩炎のこと〜

【第4回】

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2006年12月5日、火曜日。
改善しない眼の赤みに耐えかね、大きな病院に行くことにしました。
耐えかねと言っても痒いわけでも痛いわけでもありません。ただ赤いのです。
これまでの症状をもう一回まとめてみると、


11月26日、映画「ワールドトレードセンター」を観ていて眩しく感じる。
11月27日、夕方の街灯の明かりが眩しく感じる。
といった普段の何でもないものの明かりが眩しく感じるが、ただの疲れ目だと思い、
市販の疲れ目の目薬を差して寝る。

翌朝、11月28日、突然、痛くて痛くて目が開けられない状態になる。
眩しさに携帯の画面も見られないほど。

やっとの思いで起き病院へ。
小さな眼科で目薬を処方してもらい、痛み、眩しさは治まるが、充血が残る。

それから一週間・・・
すぐ治ると思ったが、充血がひかない。

痛くも痒くもないけどとにかく、充血がひかない。

このまま充血が治らなかったらと思い心配でたまらなくなる・・・。


痛くも痒くもないけれど、とにかく赤みが引かないことが心配で心配で・・・、外を歩いていてもちょっとした鏡的なところがあれば目を確認してしまうし、トイレに入れば手を洗う時に必ず目の前の鏡で目を見てしまう。一日に何度も何度も目を見てはこのまま治らなかったらどうしよう、一生赤い目のまま過ごすのか、なんてことばかりが頭に渦巻いていたのです。

原因がなんだっていい、病気についての詳しい知識なんかよりも、とにかくこの赤さがひいてくれればそれでいい、そんな一心でした。

目薬を差してもまったく症状が変わらない状況にどうにも気持ちが落ち着かず、ちょっと冷静さを欠いていたかもしれません。ネットで見たりした中途半端な知識だけで不安になり、鏡で目を見てはさらに不安になる。完全な悪循環でした。

さらに言えば、その赤みが引かない理由を最初に行った小さな古びた病院の診断、処方した薬が間違っていたからではないかと正直疑ってもいました。本来はその最初に行った病院で一週間後に再診の予定だったのですがとても行く気になれず、国立西埼玉中央病院に行くことにしたのでした。

朝一番、8時過ぎに行って手続きし、眼科の前の廊下で待っていました。そして診療開始。
診断結果は一言、

「虹彩炎」

まったく同じです。最初に行った病院の誤診なんてことはこれっぽちもありませんでした。赤みがひかないので心配で来たと先生に話しましたが、赤みが引かないのはそういう症状が出る病気だから仕方がないし、薬も処方された目薬で間違いない、当面は点眼で様子を見ましょう。先生はあっさりそう言うだけでした。

途方に暮れました・・・。ここに来ればなんか一発で解決するかのように思ってたのに何一つ解決しませんでした。

そして、病気についての説明を模型や図を使ってとても詳しくしてくれました。それは最初の病院とは比べ物にならない程丁寧でしたが、でもいくら丁寧な説明をしてくれても、理解ができたとしても、この目の赤みが引かなければ何にもなりません。「それはわかったけど、どうにも治らないのか!」説明を聞いていても思うことはそんなことばかり。説明も理解も何の足しにもなりません。患者の気落ちした雰囲気は先生にも伝わっていたに違いありません。

説明を終え、診察の締めくくりにカルテに何か書き足していた先生が、ぽろっと一言言ったのです。

「あとは、眼に直接注射打つかですね。」

注射!?僕は反応しました。数日前ネットで検索した際、虹彩炎になったが三ヶ月経っても改善しなかったので注射を打ちましたというブログ記事を読んだばかりだったのです。心配のあまりネットで検索してはこんな中途半端な知識を仕入れてたというわけです。

目薬さして様子見るしか手がないなら、そしてその結果いずれ注射打つなら、最初っから注射打てばいいんじゃないか!?僕の頭ん中はそう考え始めてました。でもこの日は撮影が入ってたのです。

「注射ですごい腫れたりするようなことはないですか?」一応聞きました。
今思えば本当に一応でした。
「それは大丈夫ですよ。」先生は答えてくれました。

注射という響きに特効薬のような、プロのアスリートがケガの痛みを注射で抑えて試合に出るみたいな、そんな即効性みたいなものを感じ、僕の気持ちは完全に注射に傾きました。そして注射でも打たなけりゃ大きな病院に来た意味がないじゃないかとも思ったのです。先生の説明は、虹彩炎の治療に使うリンデロンという炎症を抑える薬を、注射で直接眼に差せば点眼よりもより強い効果が期待できるということでした。
僕は答えました。「お願いします。」


西埼玉中央病院前の池の鯉です。治療を終え病院を出てきた僕を待っていたのは・・・。とりあえず癒してくれたのはこの鯉たちでした。この鯉はこの病院に入院したりしていた幼稚園の頃からよく憶えています。もしかしたらその頃から生きてる鯉もいるかもしれない。でも今あらためて鯉の目が集まってところ、写真中央ちょい右下あたりの鯉の目玉をよく見るとなんかちょっと気持ち悪いですね。でもこの日はこの鯉たちに癒されたのでした・・・。

次回、ちょっときつい写真があります。ご注意ください。